ホワイトな空間 1                                     目次  2  3 4  5 6
「犬」

買い物の通り道に犬がいる。

短い鎖でつながれていた。その鎖分の自由しかないのに、その犬はいつも毅然とした態度で空を見上げていた。
辛い気持ちでいた時、その犬と目が合った。やさしい、力強い目だった。
訳も無く涙があふれて心が軽くなった。

近くにスーパーが出来て、もうその道を通る事がなくなってしまった。
「Tシャツ」

ユニクロのTシャツを買った。ストレッチ素材で着心地がよい。

ただ首の後ろのタグがこすれてチクチクするので取ることにした。
糸がくい込んでいるので、かなり神経を使ってはずしたのに穴があいた。
新しいのにツギのあたったシャツを着ることになってしまった。

シャクだからもう一枚買った…さて、このタグはどうしたものか。
「父のこと」

手術から3年間が無事に過ぎ、普段の生活が戻ってき始めたとき、ガンの転移がわかり
父は抗がん剤の治療を受けることになった。体力が落ちていたので辛い選択だった。

すっかり薄くなった頭を気にしている父に医者が 「なあに、半年もすればまた生えてきますよ」
「ほーっ そりゃありがたい」 なんとも嬉しそうに笑った父だったが、それから2週間足らずで死んでしまった。

笑いながら涙の出てくる父の思い出…もう7年も経ってしまった。
「絵のない絵本のように」

お月様は気になっていました。ベッドの中で小さな女の子が泣いているのです。

様子を見にきたお母さんが気がついて聞いています。 「どうしたの」
女の子は思いつめたように話し始めました。
「あのね、あした朝顔の観察日記を先生に出さなくちゃいけないの…だけど
あたしの朝顔…とうとう芽が出なかったの」そこまで話すと、女の子はしゃくりあげ始めました。
お母さんは優しくほおずりをして、ぎゅ−っと女の子を抱きしめてあげました。

すやすや眠る女の子の寝顔を月の光がそーっと包んでいました。
「ゴッドマザーのオナラ」

ここに一枚の写真がある。
イガグリ頭の涼しい目をした若者に、緊張した面持ちで寄り添う若い妻。私の祖父母である。

あるとき、若い妻がプイッ…一瞬驚いた顔をしたダンナ様は、ややあって「あはは」と笑った。
若い妻も一緒になって「あ・は・は」…と 今まで我慢していた残りが遠慮なく続いたのだそうです。プッ・プップップゥ〜…?
若い妻はすっと立って部屋を出て行ったっきりなかなか戻ってこない。気になったダンナ様が様子を見に行くと泣いている。
困ってしまったダンナ様は 「屁ぐらいで泣くな!」
若い妻は、ますます激しく泣いたのだそうです。

誰にでも、若くて可愛らしいときはあったんですね。