ホワイトな空間 3 目次 1 2 4 5 6 | ||
「空」 私がまだ子供だった頃、空は大きかった。 夏にはムクムクと入道雲、雨上がりには魔法でもかけたような虹が現れた。茜色の空に大きな太陽が沈んでいく。 夜の星空はその深い懐で私を包み込んでくれた。安堵感と畏怖の念の入り混じった緊張感が心地よかった。 ちっぽけな私は、流れ星に願い事をしてみたり、厚い雲の間から差してくる金色の光を何かのサインだと思ったり、 ごく自然に、不思議世界と隣り合わせに生きていた。 この間、買い物帰りにふと見上げた空が、あまりに小さく、つまらなかったので…懐かしい記憶がよみがえった。
「5月4日」 | お母さんが駆けつけたときニャンタとミンミンは救急車の中にいた。 「ここが痛い、あっちが痛い」 ニャンタが大きな声で泣いている。救急隊員は皆心配そうにニャンタの怪我を調べている。 ニャンタはぶつかった時、車の向こう側に飛ばされたとかでそこらじゅうに打撲と擦り傷があった。 ミンミンはと見ると顔をしかめて黙ってベッドに寝かされている。 お母さんはそっと聞いた。「どこが痛いの?」… ミンミンは「ここ」とだけ言って左脚を指した。 検査の結果ニャンタは心配するような怪我もなく、擦り傷が治ると元気になった。 ミンミンは複雑骨折で一ヶ月ベッドに固定され歩けるようになるまで三ヶ月かかった。 今でこそ二人の個性の違いを笑って話せるエピソードになった事故だったけど… お母さんはミンミンに付き添って病室の床で寝起きした。 ニャンタは、朝お父さんに連れられてやって来て、夕方には迎えに来たお父さんと帰っていく。 「あしたの朝飯何がいい?」 「カレーパン!」ちょっとうすよごれたニャンタが答える。 二人を見送りながらお母さんの胸は痛んだ。 あの時、みんなそれぞれの立場でチョッピリ切ない思いをしていた。
「受験の頃」 | 大学受験の年、差出人の名前のない一通の年賀状を受け取った。 …学問の寂しさに耐え 炭を継ぐ…もう誰の句だか定かではなくなったが、それがポツンと書かれていた。 あまり勉強した記憶のない私ではあるが、あの感覚は共有できる。 我慢することの象徴のような寒さ…一年中で最も寒いこの季節はまさに受験の季節。 春を待つ…色々な思いが体感として甦る。 |